- Newspaper:Asahi Shimbun(E)
Date:5June,1996
Page:3
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歩行者天国のため、市民や観光客でにぎわうオーストラリア東海岸のブリスベーン市。中心部の大通りといっても、野外ステージの上の大きな屋根や商店の軒先が張り出して日が差しにくく、開放感に欠ける。
「市の都市計画政策として、歩道上に屋根を設けるように指導してきたからです」と市の紫外線対策を担当するルイス・バードウインさん(二二)。
◆損害賠償を気遣い
雨は多くない地域だが、街を歩く人に日陰を提供するために一九七○年代から市が指導してきた。今年からは市中心部で新たに店を建てる場合には義務化された。
市役所前の広場では、花の展示会がテントの中で開かれていた。「野外の催しは、日陰をつくって長時間、外にいる人に備えています」
私有地も含め樹齢百年以上の木を切ることを条例で禁止しているため、公園も木陰が多い。ジャングルジムなどは目の細かい網で作られた日よけで覆われていた。その支柱には、子供にも理解できるように帽子などの絵を添えた日焼け注意のシールがある。ベンチの上に出来た屋根にペンキを塗っている最中だった。
「条例で適切な量の日陰を提供すると定めており、遊具にも日陰をつくることになりました」という。
曇り空だったが、バードウインさんは麦わら帽子にサングラスをかけていた。野外作業をする市職員は長そでシャツ、帽子、サングラス、日焼け防止クリームが支給されているという。皮膚がんになった職員や住民から損害賠償を求められることもあり、行政も気を便う。
東南部のビクトリア州では、州の福祉施設で生活していて皮膚がんになった障害者の女性が、責任は日光から保護する服を着せなかった施設側にあると主張し、州が九三年に和解金として七万五千ドル(約六百六十万円)を支払った例もある。
◆紫外線指数を報道
紫外線対策は、連邦政府が、夏にあたる一月に国民に紫外線への注意を呼びかける声明を出すなど、国や自治体、民間が協力して当たる。
「今日の紫外線指数は『極度に高い』一二・一でした」
紫外線量を測った結果が、啓発のために国の放射線研究所から発表される。新聞やテレビは天気予報一緒に報道している。研究所には毎夕、大学や気象台などが測定した国内十三カ所のデータが集まる。指数は三未満「適度」、三以上「高い」、六以上「非常に高い」、十以上「極度に高い」の四つに分けられる。七年前から始まり、一日の指数のほか、時間ごとのグラフも示される。夏は「極度に高い」が多い。
「明日の日光浴は二十分まで」といった予報をラジオ局が独白に流したこともあった。しかし、放射線研究所の紫外線研究班長ぺーター・キースさんは「外れると影響が大きい。誤解して仰向けで二十分、うつぶせで二十分、日光浴する人もいるので、予報は可能だが、しない。本来、夏の真昼は日なたには出てほしくない」と言い切る。
豪州では、行政や民間による啓発活動が活発で、北米でも「日焼けは書」という認識が高まりつつある。日本では気象庁が九○年から紫外線観測を始め、現在国内四カ所で観測している。しかし、日常的な発表はされておらず、紫外線注意の啓発活動は一部の民間の活動が目立つ程度だ。
例えば、医師や化粧品、衣料業界の研究者らでつくる「太陽紫外線防御研究委員会」が、市民も合めたシンポジウムなどを催し、オゾン層破壊物質の廃止を求める市民団体は、豪州のがん基金の専門家らを招いて集会などを開いている。
◆フロン輸入に罰金
オゾン層破壊物質の取り締まりはどうか。南の島、タスマニア州では、ハロンを使った消火器を無許可で置くと、最高で企業なら五万ドル、個人なら二万五千ドルが科せられる。冷房や冷蔵技術者は、何がオゾン層を破壊するかなどを学び、資格を取ることを条例で定めている。
連邦政府は昨年、規制しているフロンを輸入した企業から年間総利益に匹敵する額の罰金を徴収した。日本でもフロンを排出した業者に全国で初めて罰金を科す兵庫県の条例が七月に全面施行される予定だ。
連邦政府のオゾン層保護担当官のジェームス・シェブリンさんは「皮膚がんの多さ、農業への影響もあり、豪州はオゾン層保護を積極的に世界に向けで呼びかけなければならない立場だ」と話す。
がん協会 豪州では、個人からの寄付を中心として運営されるがん協会(基金)が州ごとにあり、がんの研究や予防、早期発見などの啓発活動をしている。- 職場や学校、託児所向けの日焼け予防マニュアル作り、学校の先生を集めた勉強会、市民ボランティアによる地域の集まりや運動クラブでの講習などをしている。人気歌手を使った紫外線注意のテレビCM作りという独創的な活動もしている。
ニューサウスウェールズ州の協会が、屋外労働者用の長そでシャツなどの費用を税金から控除出来るように政府に働きかけるなど制度改革にも積極的だ。
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