- Newspaper:Asahi Shimbun(E)
Date:3June,1996
Page:3
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色の濃いサングラスをかけて、バスから降りてぞろぞろと学校に入っていく小学生たちを初めて見た人々は驚いた。あどけない表情の一年生までが得意げで、ちびっ子ギャング団のようだったという。
◆「制服」で目を保護
オーストラリア・クインズランド州の州都ブリスべーン市郊外にある私立聖オリバー・プランケット小学校(児童数三百八十人)。一九九四年から「制服」の一部としてサングラスを採用した。紫外線から子供たちの目を守るためだ。
それまでも教室に大きな容器の日焼け止めクリームを備えるなど、子供たちを強い日差しから守っできた。「目も大切だ」と一個十七ドル(約千五百円)のうち、学校が十二ドル、家庭が五ドル負担して始まった。
「格好がいい」と子供たちは喜び、登下校時だけでなく、校庭で遊ぶときもサングラスをかけている。強制ではないが、親たちの評判も良い。- 子供たちだけではない。市内のぺット店をのぞくと、犬用のサングうスまで置いてあった。「サイズは三種類あり、猫にも使えます」と店長。値段は十七ドルから二十一ドルまで。
王立動物愛護協会の獣医、カム・ディー博士は「猫は皮膚がんになりやすい。帽子もかぶらずに自由に出歩くからね」。協会に年一万五千匹収容される飼い主不明の猫のうち、百匹程度が発病している。八○年代には猫の鼻に黒い入れ墨をして予防する方法まで流行したという。
◆がん予防へ合言葉
人気の観光地、ゴールドコースト。児童数百十二人のピンパマ小学校がある。クインズランドがん基金のボランティアで、学校を回り、日焼け予防を教えるブライアン・ラックさん(六一)に同行した。
「『ソーセージみたいに黒焦げにならないよう、スリップ(シャツを着る)・スロップ(日焼け防止クリームを塗る)・スラップ(帽子をかぶる)』。さあ、言ってごらん」
ラックさんの呼びかけに、子供たちは大きな声で繰り返す。ラックさんがクリームを塗って帽子をかぶった後、「これで外に出てもいい?」と尋ねると、子供たちは「だめ。腕の裏側にクリームを塗っていない。耳のうしろ、首のうしろ」と口々に叫ぶ。
「クリームは外に出る三十分前に塗ります。直前では効果が薄いのです。では、何回塗れはいいのですか」
「一日二回」
「いいえ。二時間ごとですよ」
「スリップ・スロップ・スラップ」は、皮膚がん予防の合言葉になっている。 晴れの日多く、皮膚がんが多い同州は、紫外線対策をすべての学校に義務づけている。
「小学校に入る全員にこれを配っています」と州教育省のロイス・ケネディさんが布袋を見せてくれた。南方で旧日本兵がかぶったような首筋を覆う布のついた帽子、クリーム。それに州の首相と教育相からの「太陽から身を守る習慣をつけるよい機会です。一緒に子供たちを守りましょう」と書かれた手紙などが入っていた。
◆年2回、州が補助金
州は公立学校へ子供一人一ドルに加え、一律二百五十ドルの紫外線対策の補助金を年二回配り、教材も提供する。雨が少ないため、体育館がある学校は少ないので、体育館建設も進める。校庭で遊具のある場所には屋根を設け、木も植えている。
学校の対策が十分でないと、「運動会で長時間、日光にさらされた」「校庭に日陰が少ない」などの苦情が親から寄せられる。
ケネディさんは「日本でも関心を持つ人がいます。先日、視察の人も来ましたよ」と教えてくれた。
和歌山市の浅井周英助役(当時教育長)や市議らだった。オゾン層破壊問題などの講演会をきっかけに、二月中旬に訪れた。
「真昼の野外での体育を見合わせなければならない時期がくるかも知れない」と浅井助役は話す。
「日焼けが健康的だという認識を変えてもらうことから始める必要がある」
豪州北部は赤道に近く、目差しが強い。南部はオゾンホールができる南極にも近いため、紫外線が強くなるとの見方もある。住民はほとんどが白人なので、紫外線による皮膚がんが多い。紫外線対策が進む豪州の実情を紹介する。
紫外線の被害 豪州は皮膚がんの発生率が世界で最も高い。計算上は生涯で三人のうち二人はなる。特に人口約三百万人のクインズランド州は、メラノーマ(悪性黒色腫)に年間約二千三百人がかかり、約二百人が死亡する。約四万人がほかの皮膚がんにかかる。 予防には、帽子や服、サンクリームで有害な紫外線を防ぐことが効果的。目や免疫機能への悪影響も指摘され、国や州政府、民間が協力して、予防の啓発活動をしている。しかし、紫外線を遮るオゾン層の破壊によって、地上に到達する紫外線が増加している。
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